“私たちが共に歩んできたもの”
「死ぬとわかっているのに、どうして彼らはそんなに幸せそうなの?」
ワット・オポット・ファミリーセンターは、HIV/エイズに感染している子どもたちや、孤児となった子どもたちのためのコミュニティ。カンボジアの首都プノンペンから車で約1時間の田園地帯に位置する。
このNGOの共同創設者であり、かつてベトナム戦争で海兵隊の衛生兵だったウェイン・デール・マティス氏(Wayne Dale Matthysse)は言う。「ここの子どもたちはHIV/AIDSと共に大きくなってゆく、初めての子たちなのです。一緒に、未来について話すこともするんですよ。」 そのように劇的に未来図が変わったのは2003年のこと。国境なき医師団が、近くにクリニックを開設したからだ。抗レトロウイルス薬を提供できるようになったのである。これによりワット・オポットは、ホスピスから活気に満ちたコミュニティへ、と変容した。子どもたちとHIV陽性の成人数名が、家族のように一緒に食事をし、眠り、遊ぶ。
8歳のティア君の肖像。ゲイル・グートラッドによるその姿が、このコミュニティの歓喜あふれる精神を体現している。彼はボランティアの持ってきたギターで遊んでいる。グートラッドは書く、「アメリカでワット・オポットについて講演すると、大人たちは決まって『トイレなんかはありました?』、といった無難な質問をしてきます···けれど 三年生の子どもたちだと、こんな質問をします : 『死ぬとわかっているのに、どうして彼らはそんなに幸せそうなの?』と。
アメリカのメイン州出身のグットラット。彼女は、毎年ワット・オポットのボランティア活動を続けてきた。そこで経験してきたことが深い感銘となって、記事と写真とをKyoto Journalに彼女は寄稿したのだった。この奇跡の場所が世間に知られるように、と。 掲載の反響の中、さらに執筆と写真撮影を続け、一冊の本 『In a Rocket Made of Ice (氷でできたロケットに乗って)』を彼女は完成させた。当時のKJアソシエイト・エディター、スチュワート・ワックス(Stewart Wachs)が編集を手がけ、限定版として Kyoto Journal から出版。その後、アルフレッド・A・クノフ(Alfred A. Knopf)社 の目に留まり2014年に再出版された。
2016年の冬、ゲイル・グットラットは癌のためにこの世を去った。彼女の本は、人道的かつ文学的な遺産として今日なお生き続けている。