KJ 92号 『献身』はロバート・ヴァン・クーズヴェルトの撮影した、祇園東芸者地区の年長 「芸妓」 (京都では芸者はこう呼ばれている)つね和 のポートレートを彼の写真と文章で特集している。ヴァン・クーズヴェルトは、彼の友人、ガイドであり、また翻訳者でもある渡邉晶江と共に京都を何度も訪問し、 花柳界 の信頼を得た。彼の写真集 「京都の舞妓と芸妓」は、芸者の生涯におけるあらゆる段階や局面—舞妓としてのデビューから老年に至るまで−を、写真とインタビュ—を通して取り上げ、 置屋 (おきや)・ お茶屋 や料理屋のオーナー、管理者、音楽と踊りの師匠、着付け師、美容師、着物販売業者といった、複雑な芸術的エコシステムに関わる人々の側面を描き出している。心理療法士であるヴァン・クーズヴェルトは、彼の芸術の中で、成熟した芸妓の「今いること」の質を捉えようと努めている。彼の強調するところによれば、エロティシズムは成熟した芸妓の要素のひとつにすぎない。  

ヴァン・クーズヴェルドは、見習い芸者である 舞妓に着目し、芸者の伝統の本当の芸術性はより控えめな芸妓の中にある、とヴァン・クーズヴェルトは指摘する。実際のところ、多くの舞妓が、つね和の姉妹のように、芸妓になる前、あるいはなってからすぐに辞めてしまう。快活な姉の後を追ってこの職業に入り込んでから、つね和は厳しい踊りの稽古を受けたが、お嬢様役から抜け出て、艶やかでない役を演じることに喜びを感じるまで、自分の芸術的な天職を見つけられなかった。二人の姉妹が馴染みの客と結婚し、置屋を出ると、つね和は、家族の恩義を果たすために置屋に残るのが自分の義務だと感じた。1960年から1990年の好景気の時代、街は交際費を大盤振る舞いする裕福な家族経営者であふれ、独立した芸者 「自前さん」 として働くつね和は、教養があり目も肥えた客のために演技をするという贅沢な時間を味わった。年を重ねるにつれ、馴染みの客も齢を重ね、その数も減っていくと、彼女は熟練の 「地方(じかた)」 、三味線方として、若い芸妓や舞妓に同行した。しかし、それぞれの花街で主催される毎年のリサイタルでの 踊り こそが彼女の生きがいである。ヴァン・クーズヴェルドによれば、彼女は依然として三味線方の中心であり、最近では、 花街(かがい) の毎年恒例のおどりで、ソロを演じている。

つね和の落ち着いた優美さはこれらの写真に捉えられ、同時に長年の厳しい修練と芸妓の芸術性の根底にある規律の目に見える 証となっている。

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