ジェサップ北太平洋探検
最新号のKJ 108では、「文化的流動性」という概念、つまり文化が国境を越えて流動し、交じり合う様子を探求している。このテーマは、19世紀後半に行われた、あまり知られていない人類学的フォトグラフィックプロジェクトの印象的な画像によって美しく表現された。ジェサップ北太平洋探検(1897年~1902年)は、シベリア東海岸と北アメリカ北西海岸の人々と文化のつながりを調査したもので、ニューヨークのアメリカ自然史博物館の支援を受けて実施された。この探検の当初の目的は、DNAが発見される以前の時代において、人々の移動を文化的および系譜的に記録し、当時まだ証明されていなかった「ベーリング海峡移住説」を立証することであった。同時に、この探検は消えゆく文化を事実上記録する役割も果たし、これらの辺境地域の人々を記録した最も初期の、場合によっては唯一の写真資料となった。

Asset ID: 21143. American Museum of Natural History Library
遥か遠い時代と場所に生きた人々の顔を見つめることは、私たちに力強い印象を残す。19世紀後半において写真は比較的新しい技術であり、これらの肖像写真に写る人々は、おそらく写真が何であるかをほとんど理解しておらず、ましてや自分達の姿が100年以上も後に人々に見られ、共有されることになるとは思いもよらなかったであろう。今日、これらの写真が、政治的国境やナショナル・アイデンティティを超越した文化的なつながりを示すことで、新たな意味を帯びていく。汎アジア主義や汎インディアン主義の運動は、北太平洋地域の人々の間にある文化的結び付きや連帯を強調している。この視点を通して見ると、日本や日本文化は、孤立した独自の存在としてではなく、中国、ロシア、ポリネシア、カナダを含む広大な太平洋沿岸地域の国々からなるコミュニティの要な一部として捉え直すことができるだろう。
