日本の男たちは、この一冊の写真集の中では、かれらもその一員に他ならぬ近代的工業社会の桎梏から、祭りの一日だけは抜け出して、日常は大工場のブルー・カラーであり、あるひは大建設会社の下請労務者であるものが、日本の古い民衆の風俗に守られて、褌一本の雄々しい裸になり、生命にあふれた男性そのものに立ち還り、歓喜と精悍さとユーモアと悲壮と、あらゆるプリミティヴな男の特性を取り戻してゐる。
―三島由紀夫

2000年の春、映画評論家のドナルド・リチーは、円山公園のこぢんまりとした茶屋でKyoto Journalの編集者数名と会うために京都を訪れた。彼は、かつての友人であり、1960年代に日本の裸祭りを撮影した写真家、矢頭保について何か取り上げてほしいと熱心に頼んだ。 hadaka matsuri (naked festivals) in the 1960s. Yatō published two books—裸祭り (1968) and 矢頭は『裸祭り』(1968年)と『OTOKO: Photo-Studies of the Young Japanese Male』(1972年)の2冊の写真集を出版し、 (1972), which he 三島由紀夫に献呈した。しかし、その後彼の名は忘れ去られていった。

リチーは友人から矢頭のネガを譲り受け、約2000枚を自身の東京のアパートのクローゼットに箱に入れて保管していた。Kyoto Journalでの出版に向けて、色褪せの激しいネガの一部を現像することに同意してくれた写真家のエバレット・ケネディ・ブラウンは、 Kyoto Journalは、 こう語っている。 「これは高品質フィルムスキャナーが登場する前のことで、暗室に夜遅くまでこもって、色褪せたネガから良い写真を引き出す作業は実に大変な挑戦でした。多くの繊細な写真は修復不可能でしたが、現像液の中で美しい描写が浮かび上がる瞬間は、非常に感動的で、ある意味スピリチュアルな体験でした。他の誰もあの祭りを、素朴な日本の男性のエロスと美しさを映し出すような方法で撮影しておらず、そこに描写された感性はもはや、祭りとともに今では存在しないのです。」 

矢頭は45歳の若さで心肥大により亡くなった。彼は並外れた才能を持つ独学の写真家で、その作品は男性エロティカを扱う芸術家たちの間では熱狂的な支持を得ていた。最終的には、その題材―若い男性の裸体―に対する偏見こそが、彼が忘れ去られた主な理由であるとリチーは主張した。

矢頭の家を頻繁に訪れていた小説家の三島由紀夫は、 裸祭りの序文でこう記している。 「どうにか私達に継承され、今日もなお各地で行われている裸祭りは、かろうじてではあるが、裸の男の身体が汚れなく神聖なものであるという古代の信仰を現代に伝えている。これは、西洋化した知識人たちが長らくこれらの祭りを恥ずべきものとみなし、むしろ西洋人には決して見られたくないものとして考えてきたにもかかわらず、である。彼らは、いかなる努力をもってしても完全に消し去ることのできない古い風習を隠そうとした。明治時代の日本人は、まるで来客を迎える前に気を揉む主婦のようであった。普段使い慣れている日常品を押し入れに隠し、着心地の良い普段着を脱ぎ去り、塵一つ落ちていない理想的な家庭像を客人に見せようとしていたのだ。」

KJ 44号は、リチーと三島のエッセイと共に、矢頭の写真に36ページを捧げた。

Original layout in Kyoto Journal 44 - 2000

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