元村さんが「水俣というところがある。写真を撮りに行きたいですか」と言ったとき、初めて公害で人が死ぬということを聞いたのです。その瞬間、「行きたいです」と私もユージンも答えました。

この写真は、1972年に上村さんたちのお家で夕食後撮った写真です。撮影パートナーであり夫でもあるユージンと私は、ここから数分のところに住んでいました。母親の良子さんは胎児性水俣病を患っている長女の智子ちゃんを抱いています。水俣の多くの人々と同様、化学会社チッソからの排水により、水俣湾の魚がメチル水銀で汚染されていることを知らなかったのです。

1971年、クリスマスイブが近づくあの日、傾きはじめる太陽の光が窓からそそぎ、ユージンが「入浴する母と子」の写真を撮ったときの静けさを忘れることはありません。湯船の水が揺れるかすかな音、ユージンの息を吸い込み抑える音、そしてカメラのシャッターが押されていく音、、。後に良子さんは、NHKのインタビューで「この苦しみは見てもらわなければ分かってもらえない」と語っています。智子ちゃんの翌年に生まれた妹さんが、半世紀経った今、家族にとってもっともプライベートなところに外から人が訪れ写真を撮られる複雑な気持ちを語ってくれています・・・

Photo by Aileen M. Smith – ©Aileen Mioko Smith

ここでは、智子ちゃんを抱いている良子さんのまわりに六人の子どもたちと夫の好男さんが写っています。後ろにいるユージンの隣には 朝日カメラ の編集者、右側には、劇作家で俳優の砂田明さんと妻のエミ子さんがいます。彼らの右側には、同じく東京から来た紀美代さんが写っています。彼女は患者さんを支援するため水俣を訪れ、今も水俣に住み支援を続けています。

私にとって、この写真は多くの意味を持っています。写真に写っているみんなの表情、みんなでいただいた良子さんが作った美味しい夕食、人と人をつなぐものの本質。この写真が撮られてから半世紀が経った今、より深く実感するようになりました――上村さんたちが異なるバックグラウンドを持つ外部からの人々を受け入れ、家庭の中に迎え入れたこと。自分たちのとてもパーソナルなストーリーを委ねてくれた。それによって、当時の世間の無知と無関心という壁を突破し、日本中、そして世界の人々に水俣で何が起こったかが伝わった。私たち外の人間には、彼らの苦しみを本当に理解することは決してできなかったでしょう。しかし、それでも彼らは私たちを受け入れたのです。

Original layout in Kyoto Journal 99 - 2021

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